宝塚ひとこと日記

宝塚について、簡潔明瞭に

エリザベート 2016年 宙組3

印象に残ったシーンが、みっつあります。


まずは、シシィが、そこにいるのあなた、と歌う場面。まあさまトートが、歌うシシィを見ながら、俺のことが見えるのか? と、ものすごく驚いたような、だけど慈愛のこもった表情で、彼女を見つめていたところ。

ふたつめは、ゾフィーの顔は洗ったの、のあとのシシィとフランツ。余談ですが、早朝から元気だな、ゾフィー、と感心します。私、朝からあんなに喋れないし歌えない。

その元気いっぱいゾフィーを、「母上」と制しながらシシィの肩を抱くフランツが、あれ? このひとマザコンじゃなくて、ただ母親の影響力を強く受けているけど、自分の意志のある優しいひとなのではないかな、と思わせる。そもそも、本当のマザコンなら、シシィではなく、母上一押しのヘレネと結婚してるよな、と思ったり。フランツは、優しい。だけど、掴み所がない。そう感じた場面。

最後が、シシィと、ヴィンディッシュ嬢。今まで私が観たエリザベートでは、ふたり対峙している印象だったのですが、みりおんエリザは、ヴィンディッシ嬢を、背中から抱擁するようにして歌っていました。あなたの方が、自由、と。その自由な心を取り戻した後のヴィンディッシュ嬢の表情が、本当に柔らかく穏やかで、ああ、このひとは皇后に救われたのだ、とものすごく印象に残りました。そして、みりおんエリザの母性も。

この世のものではない、トート閣下。一国の主。自分の美しさを保ち、権力を望む皇后。辞書にそのまま表記されそうな記号が、実は普通の人間と変わらない感情を持っていて、生きているという事実。それがあるからこそ、この宙組さんのエリザは、私の今までの印象を、ぐるりとひっくり返してくれたのかもしれません。

最初にフランツに裏切られた、という思いがあっても、エリザベートは、彼を愛していたのでしょう。心優しいエリザベートだから。だけど、ゾフィーの策略で、彼女はフランツに、大人になってから、本当の意味で裏切られたことを知る。

私、エリザベートの言う、「彼が罪をおかしたなら、私自由になれる」という言葉の意味が理解出来ませんでした。だけど、彼女が夫を愛していたのなら、わかる。ロミジュリで、ジュリエットにジュリエットママが、「旦那を愛していなければ裏切られてもつらくない」と歌っていますが、それと同じような意味合いだったのかな、と。フランツを愛していたからこそ、共に生きようと自分なりに努力して、それが極端な美への執着になって。だから、フランツに裏切られた時、そのがんじがらめになった執着を手放せて、自由になれると思ったのかな…と。ルドルフに、助けを求められた時も、息子を突き放す意図はなくて(結果的にはそうなってしまったけれど)、自分を裏切った男に頭を下げるなど、彼女のプライドが許さなかったのではないか。そう考えると、私の中で納得がゆくのです。シシィは、少女から女性になっていた。本来であれば、そこに母親という顔も持たなければいけなかった。いや、持っていたのでしょうけれど、それを上手く表現する術を身につけていなかったのかもしれません。それを完璧に求めるのは、生まれたばかりの子供たちを、ゾフィーに連れて行かれてしまったシシィには酷な話しだったのかな。

だけど、確かに子供たちや夫に対する愛情は、エリザベートの中にあったのだと感じられるみりおんの演技でした。そして、フランツも、確かにエリザベートを愛していた。

だからこそ、夜のボートの場面があんなにも切なく、様々な糸がこんなにも絡まり合わなければ、良い家族になったのだろうと、悲劇の皇太子ではあったけれど、どこか健やかなずんちゃんルドルフと相まって、涙がこぼれたのかもしれません。


エリザベートは、良い王妃ではなかったかもしれない。だけど、彼女なりに不器用に、与えられた場所で必死に生きた。ルドルフのことを考えれば、正しい選択だけをしてきたわけではない。だけど、トート閣下に誘われるままに安易に楽な選択をせず、辛くても、生きた。そしてようやく、ずっと逃げていた夫と、向き合うことも出来た。それが、彼女のこの世界でやるべきこと全てだったのかもしれません。

やるべき道を、私は歩んだ。

その先にいたのが、あったのが、彼女が求め続けた自由だったのだとしたら、私は初めてエリザベートの結末に納得がいきます。

トート閣下のシシィへの愛は、ラストで実ったのではない。あそこから、新しい何かがはじまる。それは、シシィが生き抜いたからこそ、手に入れたものだ。そう、思いました。



気づけば、明日は大劇場の千秋楽ですね。はやい!

あんなハードな舞台を、日々行っている皆様には尊敬の念しかありません。あと、オリンピック、甲子園も…!

今年の夏は、素晴らしい感情に沢山出会えました。有難いです。

一ヶ月をかけての感想になりましたが、本当に素晴らしい舞台をありがとうございました!